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韓国防火事情「サンドイッチパネルの火災事例」

防火材料管理委員会 活動報告①
防火材料等関係団体協議会・防火分科会

韓国防火事情「サンドイッチパネルの火災事例」

文責:硝子繊維協会短繊維部会・防火材料管理委員会 委員長 松 岡 修

 

1 .はじめに

防火材料等関係団体協議会(以下、防団協という)とは、防火材料や防・耐火構造の通則的認定を受けていた業界団体が集まって、防火材料などの認定、供給、施工に関する情報交流、普及啓発、連絡調整を通じて建築防火の向上発展を推進する目的で 1984 年に発足し、現在40の団体が参加して活動している会である。その事務局は、 ( 財 ) 日本建築防災協会内に設置されている。
平成 10 年の建築基準法の性能規定化を機会に、防団協内では、建築防火をより効果的に推進するための新しい活動が検討された。その一つとして住宅内外壁を主な対象として防火性の調査・研究を行い、わが国の住宅の防火安全性向上に資する提案を行うために、住宅用建材に関係の深い会員で構成される防火分科会が発足し、 2004 年 6 月から活動を行っている。
この分科会には、防火試験法、建築防火基準、住宅防火材料・工法などに関する調査・研究を行うためのいくつかのグループがあり、その中の火災事例調査グループが、韓国で大きな社会問題となった サンドイッチパネル火災事例について 、韓国の TV 各局が行った報道内容を中心に調査を実施し、その結果がまとまったので、その概要を報告したい。

 

2.サンドイッチパネル(SWP)の導入  ★ A1-A5

韓国では 1981 年に初めて、ポリスチレンフォームのコア材(断熱材)を金属薄板で挟んだ構造(図 1 、写真 1 ~ 3 )★ B1 のサンドイッチパネル(以下、SWPという)が米国から輸入された。
当初は工場、倉庫などの建築資材として使用されていた。一般のレンガブロックに比べて約 4 分の 1 の価格で施工が簡便、工期も短いため雨後の竹の子のように普及して行った。
コア材として最も多く使用されているのはポリスチレンフォームで、パネル工場では、ポリスチレンフォームの両側に接着剤を塗って(ウレタンフォームをコア材とする場合は自己接着性のため不要)金属薄板を張り、連続製造されるものを所定の寸法に切断する。切断面(小口面)はコア材が露出している。

 

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【写真-1】サンドイッチパネルの例1
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【写真-2】サンドイッチパネルの例2 【写真-3】サンドイッチパネルの例3

 

SWP のコア断熱材として無機系断熱材も一部用いられているが、ポリスチレンフォームおよびウレタンフォームを用いたものが大勢を占めているので、特に区別の必要が無い場合には、これらの有機系断熱材をコア材としたものを単に SWP ということにする。
各コア材が SWP に占める割合 ★ B1 は次のとおりである。

 

ポリスチレンフォーム 73 ~ 89 %
硬質ウレタンフォーム 8 ~ 21 %
無機繊維系断熱材 2 ~ 6 %

また、 SWP の建物用途別出荷割合★ B1 は次のようになる。

 

産業用 65%
倉庫用 25 %
住宅用(含商業用) 10 %

SWP の施工例を写真4~8に、また SWP 工事の概要を写真 9 ~ 15 に示す。

 

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【写真-4】SWPの施工例1 【写真-5】SWPの施工例2
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【写真-6】SWPの施工例3 【写真-7】SWPの施工例4(商業施設)
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【写真-8】SWPの施工例5(商業施設) 【写真-9】鉄骨造躯体工事
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【写真 -10 】 SWP 張り工事:壁部
~鉄骨造躯体壁及び天井にパネルを張付ける。
【写真 -11 】 SWP 張り工事:壁部施工断面
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【写真-12】 壁部 SWP 張り後 【写真-13】天井部
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【写真-14】 天井張り工事 【写真-15】完成

 

3. 不燃材料として取扱われた SWP ★ A1

韓国でも建築物には、建築法第 43 条、建築法施行令第 61 条の規定により、一定規模以上の不特定多数者の利用施設・共同住宅、生活圏修練施設(生活圏の中で空手、ボクシング、バレー、ダンスなどの教育訓練を行う施設)・自然圏修練施設(自然体験学習を行う「山の家」などの教育訓練施設)などは、壁・天井・廊下・階段などの仕上げ材料を不燃材料・準不燃材料・難燃材料にすることを規定した、いわゆる内装制限があるが、 1996 年 2 月 17 日韓国建設交通部は、SWPは不燃性の金属板でカバーされており、火がコア材まで届かないという理由により、防火試験を行わなくても不燃材料として取扱うことを決定した。この決定により、 SWP は内装制限のある建築物への使用が認められることになった。

 

4.SWP の急速な普及

その後、 SWP は堰を切ったように多くの用途の建築物に使用されて行った。 不特定多数の人が集まる大型ディスカウントショップ、大病院、種々の宿泊施設をはじめ、各種学校・更正施設、危険物の保管場所であるガソリンスタンド、幼稚園など韓国 KTV の報道によると 2001 年までの累積では、全国で32万棟 ★ A2もの建物に普及している。

 

5.多数の死傷者を伴う火災の多発と社会問題化

急速な普及の一方で、 SWP を使用した建物の火災が全国的に多発した。これらの中には多数の死傷者を伴う火災(表 -1 )もあり、韓国 K TVをはじめマスコミが大きく報道して、社会問題化することになった(表 -2 )。

 

表-1 SWP使用建物の大規模火災事例*A1

1993.04.19  ノンサン神経精神科病院火災 ・・・死者34名、負傷者2名

1997.06.29  平和の家火災 ・・・死者5名(障害者)

1999.10.30  インチョンのビアホール火災 ・・・死者55名、負傷者80名

2000.11.02  マンウォン工業団地の化学工場火災 ・・・死者2名、負傷者48名

2000.11.16  キム・キョンビン神経精神科病院火災 ・・・死者8名、負傷者48名

2001.01.10  ホバンのディスカウントショップ・セラフ火災 ・・・死者4名、負傷者48名

2001.05.16  イエジ学院火災 ・・・死者(学生)10名、負傷者24名

2001.07.10  テグのソンソ工業団地火災 ・・・工場6棟に延焼

 

表-2 TV各局の報道例

2001.08.18  韓国TV ニュース9  「死の建築資材」

2001.09.07  KBSTV 11時 ニュースライン  「SWP火災実験」

2001.09.17  韓国TV ニュース9  「信じられない不燃材」

2002.10.18  GTV ニュース820  「組立て建物、火が出れば無策」

2002.10.20  韓国TV 取材ファイル4321  「組立て建物、火災惨事の特集」

2002.11.02  韓国TV ニュース9  「学校施設に可燃性内装材使用、火災危険性重大」

 

主な問題点は、?火災が発生すると短時間で爆発的な燃焼が起こって延焼が早く、消防隊が到着したときには既に全焼していることもある。?金属板で覆われているため火に水が直接届かないため、破壊消火をしたり金属板を剥がしながら放水するなど、消防が困難である。?大量の煙やガスを発生する、などであった。
SWP 火災の特徴は、死傷者が極めて多いことである。 建築法施行令第 61 条の規定により、学校については、内装制限が適用されないため種々の性能のSWPが無制限に使用され、その結果 2000 年には 230 件余であった学校火災が 2001 年には 260 件と 10 %以上増加した。そして 2001 年 5 月のイエジ学院火災では、 10 名もの学生が死亡し、負傷者も 24 名に達した * A3 。韓国の過去 10 年間の火災被害の統計をみると、人命被害の 90 %が煙による窒息と有害ガスによるものである。
また 2002 年の時点で、京畿道地区にある 5700 箇所もの SWP 製造工場のうち 4 分の1に当たる 24 %の工場が火災被害を経験 * A1 しており、いかに SWP が火災を起こし易い建築部材であるかを物語っている。
以上のようなことから、 SWP の火災について行政の速やかな対応が強く求められることになった。

 

6.韓国行政の対応

番組内で SWP の防火試験を実施し、不燃性能がないことを報道するなど、マスコミの一連の報道を受けて、 SWP の火災は国会でも論議を呼ぶことになり、建設交通部は、関係法令の改正を計画していることを公表し、韓国建設技術院、大韓建築学会を通じて建築物の防災基準促進化法案の検討に着手した。建設交通部の意向を受けて、大韓建築学会などは、市場に流通しているSWPの難燃性評価を実施した。そして、わが国の難燃性試験規格 JIS A 1321 :1963 をベースに規定されている韓国工業規格 KS F 2271 「建築物の内装材料及び構造の難燃性試験方法(基材試験、表面試験及びガス有害性試験から構成)」で評価したところ、これらの SWP には難燃性能がないことが判明した。 そこで建設交通部はそれまでの方針を変更し、 2001 年8月に韓国建設監理協会及び大韓建築士協会に通達 * B2 を出し、 SWP の使用前に KS 規格による性能確認を行うように指示した。
KS F 2271 は、難燃1級から3級までを規定しているが、これらの性能等級は、わが国の不燃、準不燃、難燃材料に対応するもので、それぞれ、旧基材試験+旧表面試験、旧表面試験+旧穿孔試験+ガス有害性試験、旧表面試験+ガス有害性試験を適用して評価を行うことになっている。そこで建設交通部は、上記の試験に合格する難燃 3 級以上の SWP のみを使用するように通達で指示したものである。
その後建設交通部は、 2002 年 6 月 3 日に「建築物の避難防火構造などの基準に関する規則」第 6 条 ( 不燃材料 ) の規定を改正して、上記通達での指示内容を法規定化する方針を官報で予告発表した。 工場建築物の場合には、建築法施行令第 61 条の規定により、その規模・業種に関係なく内装仕上げ材には難燃 3 級以上の不燃性能を確保することが要求されているため、ポリスチレンフォーム及びウレタンフォーム SWP は、工場には使用はできなくなっている。そのためパネル製造業界の反発が強く、建設交通部は救済のために、小規模工場への適用除外化の法改正を予告発表( 2003 年 10 月 22 日)したが、建築物の火災安全性の確保に逆行するとの反対も多く、改正は保留状態にある。 そして今や、改正されるかどうかも全く不透明な状況にある。
ところで、韓国でも工業規格の国際調和化に取組んでおり、 ISO 規格は段階的に KS 規格化されている。防・耐火分野では、これまでの防火試験に加えて、わが国でも採用されているコーンカロリメータ試験が韓国工業規格 KS F ISO 5660-1 (Cone test) として規格化されている。また、 SWP の部材としての防火性能評価を行うための SWP耐火性試験法( Reaction-to-fire tests for sandwich panel building systems )として、 ISO13784-1 Reaction-to-fire tests for sandwich panel building systems ‐ Part 1 : Test method for small rooms (available in English only) およびISO13784-2 Reaction-to-fire tests for sandwich panel building systems ‐ Part 2 : Test method for large rooms (available in English only) を導入し、それぞれ KS F ISO 13784-1,-2 として規格化されている(以上の試験法は、 2004.12.1 公示)が、これらの試験の実施は法律で規定されていないため、韓国建築市場ではまだ変化は起きていない。

 

7.おわりに

以上の一連の韓国 SWP 火災の問題点についてまとめると、次のようになろう。

1 )SWP は可燃性のコア材が端部(小口部分)で露出しているため、この部分が着火するおそれがあり、コア材が燃焼すると、表面が金属板で覆われていても火の着いた液滴が流れ落ちて、火災の拡大を助長する場合がある。

2)表面が金属板で被覆されていることから、防火試験を行うことなしに SWP は不燃材料として認定された。

3)SWP の防火性は材料レベルだけで判断され、それが建築物の壁や天井に使われた場合の火災安全性についてはあまり考慮されなかった。

 

このような問題点を解決するために、内外装材や内外壁の材料構成、構造、工法などによっては、次のような性能評価が必要になると考えられる。

 

1 )火災時の発煙性、ガス有害性、燃焼液滴化性、火炎伝播性、フラッシュオーバー発生の有無などの評価。

2)実際に使われる場合の目地処理、部材取合部の処理、取付方法などの防火性能評価。

注:本稿は、日本火災学会誌「 火災 」( Vol.55 , No.3 )に掲載された「韓国におけるサンドイッチパネルの防災上の問題点」に加筆し、 ( 財 ) 日本建築防災協会機関紙「 建築防災 」 (2005.9) に掲載されたものの転載である。

 

【出典】

1. 韓国各 TV 局報道より引用
★A1 :韓国 KTV 報道; 2002.10.20 取材ファイル 4321 「組立て建物、火災惨事の特集」
★A2 :韓国 KTV 報道; 2001.9.17 ニュース 9 「信じられない不燃材」
★A3 :韓国 KTV 報道; 2002.11.2 ニュース 9 「学校施設に可燃性内装材使用、火災危険性重大」
★ A4 :韓国 KBS-TV 報道; 2001.9.7 11 時ニュースライン「 SWP 火災実験」
★A5 :韓国 GTV 報道; 2002.10.18 ニュース 820 「組立て建物、火が出れば無策」

2. 文献等より引用
★ B1 : ISO/TC92/SC1WG7 N339 東京国際会議における韓国 KYUNGMIN COLLEGE, Woon-Hyung,Kim 教授の発表資料。
★B2 : 2001.8.28 文書番号;建築 58550 「 SWP の不燃性能確保の通達」

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